3. | 退院後の経過 |
退院後、尿は相変わらず、漏れてしまう。夜起きる回数も減ってきたし、オシメを取り替える回数も減ってきた。日に日に良くなってゆくようだ。退院後初めての外来診察の日。主治医の穎川先生から「切り取ったリンパ節には転移は見られなかった。病理検査の写真8枚に悪性の腫瘍が写っていた。膀胱に近い方から黒い部分が順に3割くらいから8割くらいまであった。先生は「癌が前立腺の周辺に残っていたのかもしれない。また組織を採って調べる必要がある。その結果によっては放射線治療をしなければならないかもしれない。」とのことだった。2週間おきに2、3ヶ月通院診察をすることになった。退院後2週間目あたりから尿の出が悪く、尿道も痛くなってきた。診察予定日ではなかったが病院に行ってみてもらった。尿検査の結果尿が大変汚れていて、何か菌が入ったのだろうとのことだった。抗生物質の薬を飲んで様子を見ることになった。尿道が痛みはじめた。30分おきに痛みが出る。だんだん痛みが激しくなって我慢できなくなった。午前3時過ぎだったが、病院の救急医療センターに電話をしたところ受け入れてくれた。手術をして尿道をつないだところの内側に、肉が盛り上がってきて尿道をふさいでしまたのだ。そのため膀胱に尿が溜り出ないのだ。尿道が狭くなっているので、順に広げるために、4ミリのカテーテルから5ミリ、7ミリ、と順に入れ替えて尿道を広げていって14ミリまで通した。7ミリのカテーテルを通したところで膀胱のあたりを押して溜まっていた尿を出してくれた。沢山の量が出たので気持ちが良くなた。処置に1時間半くらいかかった。次回の定期診察の日までカテーテルは通しておき、主治医の先生の診察を受けること。特に薬を忘れずに飲むこと、ペニスを清潔にしておくこと、の三点を注意するようにいわれた。 12月1日から放射腺治療が始まった。放射腺照射治療室は広い部屋で、大きな放射線照射機1台部屋の中央にあるきりだった。1日1回2グレイの放射線を30回、全部で60グレイ照射することになった。1回僅か40秒で終わってしまう。1日おきに前と後を10回づつ照射する。あまり簡単なので、これで効果があるのだろうか疑問に思ってしまう。腸の動きが活発になってきたような気がする。1週間目に泌尿器科の診察があった。貧血検査をした。1週間後に結果が分かった。白血球数が5800から4700まで下がっていた。12回照射をしたところなので、このくらいの低下は正常だとのことだった。下痢の薬を出してくれた。腸の内壁がただれてきて肛門まで痛くなることがあるそうだ。16回目の朝、何回もトイレに行ったが下るだけで、胃と腸が痛んだ。20回で暮れの休みになるのでその頃には落ち着くだろうとのことだった。20回目が終わった頃には、便は下るし、血便は出るし、食欲はなくなってくるし、なんとなくだるく気力もなくなってきた。12月29日から1月4日まで静かに過ごした。いくらか落ち着いてきたようだった。5日放射線科の診察があり、これからは側面からの照射なので、照射の狙いを決めるためのレントゲン写真を2枚取った。側面からの照射は深さが、深くなるため毎日左右両方から照射することになる。放射腺照射は身体に相当な負担になるので、2、3ヶ月は無理はしてはいけないし、腫瘍マーカ値検査は、定期的にしなければいけない。との診断だった。 1月9日ミッテラン全仏大統領死亡の記事が一面に載っていた。大統領在任中の92年9月前立腺癌の手術をし、94年7月に再手術し、昨日1月8日に死去した、とあった。 昨日の新聞には主治医の穎川先生の前立腺癌に対する治療法と業績が大きな記事で出ていた。先生に診てもらってよかった。穎川先生から経過がよさそうだ。一時、4000台まで下がってしまっていた白血球も7000台まであがってきた。との診断だった。腸の調子も良くなってきた。副作用も収まり、体調も良くなってきた。パソコンをやる気力も出てきた。1月19日放射線治療が終わった。放射線科の先生の診察があった。今後は泌尿器科の継続的な検査と診察を受けること、特に骨の検査が大切で、骨に転移したときはまた放射線治療が効果的である、とのことだった。 今度の放射線治療をしたことから病気のことをもう一度考えることにした。前立腺全摘手術を受け、癌の再発の可能性の高いことから放射腺照射と言うことになったわけだ。現代医学を信じ、医師の指示に従い処置をしてきた。癌は強力な相手で、とても立ち向かって闘うなんていうことはできないことは明らかだ。よく病気に負けず頑張ってください、なんて言われるが、病人は頑張るなんてことは出来ない。頑張ってもらうのは医者であって患者ではない。医者が一生懸命頑張って治療にあたってもらい、患者は医師を信頼してお任せすることだと思う。癌と診断されたら、一生癌との付き合いをしなければならないのだ。だから癌と仲良く付き合う方法を考えるべきだ。癌には、暴れず騒がず、静かにしていてくれと願うことだ。癌に効くからといろいろ薦めてくれる人がいるが、私は余り信じない。また、自分のことは自分が一番よく知っている、等といって医師を信じない人がいるが、素人判断も甚だしい。自分が一番のやぶ医者だ。現代医学の専門家の診断を信ずることが一番大切なことだと思っている。 勤めは昨年3月で辞めてしまいましたが、1998年3月現在、気を緩めると多少の漏れはあるが、極めて、順調に、安定した生活をしている。パソコンでインターネットを楽しみ、土日は公共施設で囲碁を楽しみ、運動は月一ゴルフができるようになり、経済的には豊かではないが、趣味で豊かな生活ができるようになった。ありがたいことだ。 長いこと、退屈な文章をお読み下されありがとうございました。
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